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働くナビ:事業者側が「個人事業者」として団体交渉を拒否、争う例が増えています。

2012/10/25

 ◆事業者側が「個人事業者」として団体交渉を拒否、争う例が増えています。
 ◇「労働者」の定義が焦点に 最高裁で見直しの可能性/厚労省もルール作りへ
 勤務している人の実態が「労働者」にもかかわらず、事業者側が「個人事業主」と主張し、労働関連法の適用を免れようとするケースが増えている。労働者の定義が不明確な中、会社側が労働者の団体交渉を拒否したことを不当労働行為と認めた中央労働委員会(国)の救済命令を、東京地裁や東京高裁が取り消す事態も相次いでいる。だが、うち2件の上告審で、最高裁は3月中に双方から意見を聞く弁論を開くことを決め、2審で取り消された判決が見直される可能性が出てきた。厚生労働省もルール作りに向けた検討を進めており、働き方の見直しの契機になりそうだ。
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 「厚労省がようやく動いてくれたという思いだ」。1月31日、八王子労働基準監督署が家庭用ミシン大手「蛇の目ミシン工業」に対し、委任販売員として働く伊藤彰俊さん(46)らに労働基準法に基づく未払い賃金を支払うよう是正勧告を出した。伊藤さんの給与は完全歩合制で経費は全て自己負担。同社は委任販売員は個人事業主だとして、労働関連法の保護から外してきた。伊藤さんは1度目の申請で労働者と認められず、2度目の申請をしていた。
 個人事業主は、芸能人やプロ野球選手、運転手、大工などの仕事から、最近では企業の都合で、保険外交員や集金受託者、バイク便運転手、理・美容師などにも拡大。背景には、雇用責任の回避や労災保険・雇用保険の負担逃れなどの狙いがある。伊藤さんは「こういう働き方を増やすべきでない」と話す。
 では、労働者とは何か。法律上の概念は3通りある。「賃金、給料、これに準ずる収入によって生活する者」を指す労働組合法上の労働者、「事業または事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」を指す労基法上の労働者や労働契約法上の労働者がある。
 この中では、労組法上の労働者の概念が最も広い。だが、個人事業主とされると、自ら労働組合を結成して団体交渉を求めても、「事業主であり、労働者ではない」という理由で応じてもらえない場合が少なくない。
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 中労委と裁判所の見解が食い違い、最高裁で係争中なのは3件ある。「新国立劇場」のオペラ合唱団員として年間200日以上拘束され、稽古(けいこ)や本番に臨んできた女性が契約を打ち切られ、日本音楽家ユニオンが運営財団に団体交渉を求めて拒否されたケースでは、中労委が労働者と認めたが、東京地裁、東京高裁が否定。国(中労委)が上告し、3月15日に最高裁第3小法廷で弁論が開かれる。
 「INAXメンテナンス」と業務委託契約を結び、同社の指示で顧客を訪ねてINAX製品を修理するカスタマーエンジニアが、労働組合を結成し、団体交渉を拒否されたケースでは、中労委が認めた労働者性を東京地裁が支持したが、東京高裁が否定。国が上告し、同29日に最高裁で弁論が開かれる。また、「ビクターサービスエンジニアリング」のケースでも国が上告している。
 新国立劇場のケースに関わる古川景一弁護士は「仕事を断れる、勤務時間を自分で管理できるなど裁量の余地が少しでもあると、労働者ではないと判断される。裁判所が認める労働者は、非常に限定的になっている」と指摘する。
 個人事業主を巡る最近の裁判では、マンションの内装工事を請け負った大工の男性が労災保険の適用を求めた訴訟で07年6月、最高裁が労基法上の労働者性を否定し、男性の上告を棄却した事例がある。古川弁護士は「最も広い労組法上の労働者性が仮に最高裁で否定されると、ますます個人事業主が増える可能性がある。認められれば労働者を守る第一歩になる」と話している。【市川明代】
[毎日新聞社 2011年2月28日(月)]